2016【学生インタビュー】ファーストリテイリング・フィリピン 最高執行責任者(COO) 久保田勝美さま

肩書ではなく人間性で勝負する

玉井:本日はご多忙のなかお時間を割いていただき、ありがとうございます。
早速ですが、どのようなきっかけでユニカセをご存知になったのですか?

久保田さま:ユニカセは、オーガニック野菜や健康的なレシピなどで日本人の間で知られていました。友人から「健康な食べ物が食べられる」という紹介を受けて、来店したのがきっかけです。レストランで八千代さんと話して初めて、運営側でも支援の活動をしていることを知りました。

私がこの順番でユニカセのことを知ったのは、食べ物を提供しているレストランとして正しい順番だと思います。提供しているものやサービス自体が強くないと、活動も強くなっていかない。NGO的な活動をしている場所は、フィリピンにも、他の国にもいくらでもあります。

でも、ユニカセの特徴は、そういった活動を行いつつもしっかりとおいしい食を提供していることだと思います。

玉井:中村さんも「まずお客様に美味しいと喜んでいただけるレストランであること」を追求しています。ここまで来るのにユニカセも試行錯誤してきましたが、久保田さんもフィリピンで一から事業を立ち上げられたんですよね。一番苦労されたことはなんですか?

久保田さま:フィリピンと、ユニクロが正しく互いを理解すること。全体の理解です。商売なので、文化や思想の対立ではない。ユニクロは、日本のアパレル業で人々にとって本当に良い服を届けたいという人達が集まっている会社ですよね。どういった仕事をしたいのかという私たちの思いがあります。一方で、採用したフィリピンの方や、合弁会社などの思いがありますよね。お互いの思いを正しく理解していかない限り、海外事業で成功するものはないと思います。そこの理解が大変でした。

玉井:フィリピンと日本のユニクロのメッセージングでなにか違いがあったということですか?

久保田さま:私たちのメッセージは、世界中どこでも変わらないです。でも、受け手の受け取り方は違う。それを気にしながらやっていくことが大切だと思います。相手の気持ちを慮って、同じメッセージを発信していくことです。幾らか、とか値段を押し出すのではなく、商品の特徴を相手にしっかりと伝える。それで商品の魅力を知って、買ってくれる人は買ってくれます。海外進出を目指す企業はたくさんありますが、しっかりとしたアイデンティティを持っていれば、大小に関係なく海外でも成功すると思います。

玉井:フィリピンのユニクロでも日本からのインターンシップを受け入れておられますよね。現場ではどんな学びがあると思われますか?

久保田さま:フィリピンのユニクロのインターンで一番いいことは、日本ではないところで生きる力が付くこと。人に助けてもらう力がつくことです。自分の力以上のことをしたいと思ったときに、人に助けてもらう力をつけられると思います。

玉井:逆に、日本だとつかない…?

久保田さま:日本だと、環境やその人が所属している枠組みで行動がほとんど規定されると思います。○○大学出身です、というだけで会える人がいたりする。でも、たとえばフィリピンの道にでて出身大学を言っても、なんも価値も見いだされない。でもそこでなにかしなくてはならない、となったときに個人としての力が試されると思います。

玉井:久保田さんも、学生時代にブラジルで一年間働かれたご経験があると聞きました。

久保田さま:はい、あしなが育英会のプログラムで一年間ブラジルの電電公社で働いていました。このプログラムの仕事は千差万別ですが、ポイントは「働く」ということ。当時のブラジル人と同じ給与で働いていました。だいたい月75ドルでした。今の日本だと、日給でそれくらいもらえると思います。でも、今の日本で一日バイトをして稼いだ75ドルと、当時のブラジルで一か月働いて稼いだ75ドルの価値は、まったく違う。この価値がわからないと、ある意味、本当に海外はわからないと思います。

どういう労働で得たお金かによって、その価値は全然違う。だからユニクロ・フィリピンでのインターンも、現地採用のフィリピン人と同じ給与と待遇で働いています。

また、インターン生には自分で職場の関係性を作るように言います。休暇をとるのも、上に聞くのではなく、その人が自分で職場の人たち関係性を作って、休んでいいよって言われる関係になれば休んでいいとおもいます。仲間になって、一緒のレベルで働いて初めて休みをもらえる。

インターンの価値は、こうして働きながら学ぶことができることだと思っています。名の通ったところで、箔付けのインターンに行きたい人もいっぱいいる。でも、実際に採用面接で経歴を聞くよりも、趣味を聞いた方がよっぽど仕事でもうまくいきます。経歴や肩書を全部取っ払って、一人の人間として働く経験が大切です。

玉井:とても大きな課題ですね…改めてしっかり考えてみたいです。ところで、最近はグラミン・バンクをはじめとして、ソーシャルビジネスが注目されていると思います。「社会問題の解決に向かいながらビジネスとして価値を提供する」、このことに関して久保田さんはどのようにお考えですか?

久保田さま:ソーシャルビジネスだという風に注目されていない企業でも、多かれ少なかれ企業は社会に対してなにかプラスのインパクトを与えられる側面があると思います。地方でその地域の人を学歴に関わらず採用して生活できるようにしている工場だって、十分に社会的に価値のある企業です。グラミン・ユニクロやマザーハウスに価値があって、例えば地方の工場で雇用を生み出しているような会社に価値がない、というのは違う。たんなる度合いの問題です。

今までの区分としては、ビジネスはお金儲けでNGOは支援、という形でした。商品やサービスをいいなと思って、労働で得たお金を商品と交換してくれる。それがビジネス。本当に人に求められるものを提供して、得たお金でまた価値を生み出します。一方でNGOの場合、拡大性、継続性で難しくなって、関係ないところからお金をもらって回します。企業がお金を生みながら良いことをするには、クレディビリティのあるNGO団体などにまかせるという形がほとんどでした。最近では、だんだんその間がでてきたのではないでしょうか。

玉井:たとえば民間企業が社会に与えられるインパクトは、どんなものがあるとお考えですか。

久保田さま:大きな民間企業は、それだけ大きなスケールで物事を進められると思います。今バングラデシュのユニクロで働いている人の数は5万人くらいいると思う。ラージコーポレーションの特徴は、非常に大きなインパクトを与えることができることです。小さな社会的企業とどちらが優れているのではなく、セグメントが違う。コーポレートで働くことで社会変革ができるという考え方もあると思います。

玉井:社会に対して様々な企業がプラスのインパクトを行っていくことの可能性を感じます。
本日は貴重なお話しをいろいろと聞かせていただき、ありがとうございました。
これからも、レストランへのご来店、ぜひよろしくお願いいたします!

(2016年3月)

インタビューを終えて‥‥

久保田さんのお話一つひとつが、自分の中でリフレクトさせられるものでした。○○大学などの肩書をすべて取り払ったときに自分に残るものがなにかを考えると、答えに詰まりました。自分に安住することの甘えに目を向けさせられたインタビューだったように思います。そこでどう行動するかは自分次第ですが、そのような機会を与えていただいてありがとうございました。久保田さん、貴重なお時間をありがとうございました!

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